以前は「魚舟シリーズ」と呼んでいましたが、魚舟が出てこない話もあるので、この名称に統一しました。現在では、出版社による販促・各書評などでも、この名称が使われています。広告でも、この表記をとることがあります。
オーシャンクロニクル・シリーズは、シリーズ化を前提に執筆が始まった作品ではありません。執筆開始当初は、刊行できるかどうかすら不明、刊行されたあとも、シリーズ化できるかどうか不明だったので、どの段階でも執筆を打ち切れる態勢で臨んでいました。
ただし、作品世界全体を記述した構想ノートは、著者のデビュー前から先行して存在していたので、まったくゼロの状態から「魚舟・獣舟」だけが生まれ、そこから長編化された――というわけではありません。
つまり、最初から大きな世界がひとつ未発表のまま先行して存在しており、そこから少しずつ、発表媒体や時代や読者層に合わせて各々の作品を切り出している――というのが、このシリーズの特徴です。
最初の短編発表から10年以上経ったあたりで(※「魚舟・獣舟」の初出は2006年)さすがに、このあたりの事情が世間では曖昧となり、ネット等で間違った情報が流れるようになりました。そこで、以後は、機会があるたびに正しい情報を提供しています。トークイベントやインタビュー等では、質問されれば、毎回、上記の内容を回答しています。
「どこがシリーズの発端だったのか」という情報も共有されにくくなってきたので、Webサイト、電子書籍、紙媒体等を通して、ことあるごとにリストを提供しています。このページも、その作業の一環として存在しています。
作品ごとに作風や主題が異なるシリーズなので、必ず、発表順の通りに読まねばならないわけでもありません。実際、最新刊を最初に読み、そこから過去のシリーズに遡って「魚舟~」から読み始めて下さる方もおられます。たいした混乱もなく、楽しんで頂いているようです。このようなスタイルは、シリーズ作品を読む際に、決して珍しい形ではありません。私も若い頃には、よく、このような変則的な読み方をしました。最終的に、全体の辻間が頭の中で合えばよいのです。このあたりは、個人の裁量にお任せしています。ただ、読む順序が逆になると、共通エピソードや用語がわかりづらくなる部分あることは、あらかじめお断りしておきます。 (文責:上田)
■「魚舟・獣舟」 (2006年)
魚舟や獣舟という生物がなぜ存在するのか、その誕生史が、最も詳しく、コンパクトにまとめられている作品です。ホラーアンソロジー『異形コレクション・進化論』(光文社文庫)初出。
現在は、短編集『魚舟・獣舟』(光文社文庫)に所収。電子書籍版も有り。
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334745301
後に続くSFシリーズと違って、ホラー作品として書かれたのが最大の特徴です。英語、フランス語、中国語の三ヶ国語に翻訳されました。
単発の形では、現在、『日本SF短篇50 V』(日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー/ハヤカワ文庫JA)でも読めますので、こちらもよろしく。
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21131.html
■『華竜の宮』上・下 (Ocean Chronicles I) (2010年)
早川書房/Jコレクションシリーズで初出。第32回日本SF大賞受賞作。
現在、ハヤカワ文庫JAで刊行。電子書籍版も有り。
上巻 http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21085.html
下巻 http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21086.html
(誤記やデータミスは、文庫版で修正されています)
この作品から普通のSF路線に転じています。先行作品として「魚舟・獣舟」があるため、作中では、魚舟関係の情報については短縮して書いています。
2019年に、中国で簡体字版(上下・二巻組)として完訳されました。
■「リリエンタールの末裔」 (2011年)
短編集『リリエンタールの末裔』(ハヤカワ文庫JA)に所収。電子書籍版も有り。
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21053.html
「SFマガジン」2011年4月号初出。チャムの少年期から青年期の話。
この作品を先に読んでおくと、後述の『深紅の碑文』が、より楽しめます。
■『深紅の碑文』上・下 (Ocean Chronicles II) (2013年)
早川書房/Jコレクションシリーズ(上・下巻)初出。
現在、ハヤカワ文庫JAで刊行。電子書籍版も有り。
上巻 http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013144/author_Agyo_U_471/page1/order/
下巻 http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013145/author_Agyo_U_471/page1/order/
(誤記やデータミスは、文庫版で修正されています)
作品の時系列上では、『華竜の宮』の続編にあたります。「華竜~」第八章からエピローグ直前までの、空白の40年余りを描いている。登場人物の入れ替え、視点の変更などがあるので、小説としての構造上、姉妹編という呼び方がなされる。
■「ルーシィ、月、星、太陽」 (2017年)
「SFマガジン」2017年4月号掲載。
〈ルーシィ編〉第1話。(以後のストーリーは、現在、執筆中)
■「銀翼とプレアシスタント(抄)」 (2019年)
「SFマガジン」2019年4月号掲載。
日本列島が島嶼になりつつある時代の物語。作品冒頭部分のみの抄録です。時系列的には、大陸で国家間の衝突が始まり、それが世界大戦を引き起こしていく直前の時代。殺戮知性体やアシスタント知性体の核となる技術が確立しつつある頃。この作品は、大幅改稿のうえ、書き下ろし作品として発売の予定です。
■『獣たちの海』 (2022年)
前編書き下ろし短編・中編集の文庫本。短編3本、中編1本。すべて、海上民にまつわる物語です。海上民関係のエピソードは、これで終了となります。
このシリーズに関する詳細は、「SFが読みたい! 2015年版」(早川書房)http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000012622/に掲載された著者エッセイ、もしくは、電子書籍『ミューズ叢書<2> トークイベント記録』でも確認できます。
ネット上で読めるインタビュー記事が追加されました。紙版の「紙魚の手帖」vol.04 APRIL 2022(東京創元社/2022年)に掲載された記事です。Web東京創元社マガジンで全文公開となっています。
http://www.webmysteries.jp/archives/29428239.html
【現在の執筆状況】
・「ルーシィ編」「陸上民編(もしくは、海上都市編」の執筆準備を開始しました。刊行時期は未定です。