今日のつぶやき(18) 小松左京『日本沈没』に解説を書きました

●昨日、公式アカウントが情報を公開していますが、12月15日発売の新装版『日本沈没』上下(小松左京/ハルキ文庫)に解説を書きました。下巻に収録されています。大変光栄なお仕事を頂きまして、誠に恐縮しております。解説原稿に、小松さんのご遺族の方からOKが出たときには心底ほっとしまして、またひとつ小松さんに恩返しできたと、うれしく思っております。
https://twitter.com/OfficeTripleTwo/status/1335155901796270081

●私がリアルタイムで読んだ『日本沈没』は、1973年に刊行された光文社のカッパ・ノベルス版で、いま、手元にあるのは、1995年に阪神淡路大震災があったときに緊急出版された光文社文庫版です。これには、森下一仁さんの解説が載っています。小学館文庫版の解説は、堀晃さん。文春e-Books版(電子書籍/上下合本)には、巻末に、ご遺族の小松実盛さん(「小松左京ライブラリ」を運営しておられます)の解説があり、膨大な量の資料も併録されており、とても貴重な一冊です。電子書籍であることの強みを利用して、小松さん関係の写真資料もカラーで収録されています。電子書籍は場所をとらないので、紙版で小松左京という作家を初めて知った方には、何かの機会に、ぜひ、一度目を通して頂きたいバージョンです。小松さんの作品は、各社にまたがって刊行されているので、お好きな版を選んで読んで下さい。

●私にとって『日本沈没』との初めての出会いは、1974年のテレビドラマ版でした。私と同世代(1960年代前後生まれ)の方は、1973年の映画版か、このテレビドラマ版が初遭遇になったパターンが多いのではないかと思います。当時のテレビは、いまのように液晶画面を使った大画面の薄型テレビではなく、箱形で画面も小さい(画面比率は3:4の)ブラウン管テレビでした。古い型はカラー画面ではなくモノクロ画面で、うちでも長い間、モノクロタイプとカラータイプを併用していました。
 あの頃、人気のあったテレビドラマは何度も再放送されたものでした。夕方、ちょうど学校から帰宅したあたりが再放送の時間帯で、『日本沈没』も、リアルタイム放送だけでなく、再放送で繰り返し見たのです。10歳ぐらいの子供にとって、大人向けのドラマの何が面白かったのだろうか――と、あらためて考えてみると、やはり一番は、科学知識を挿入するだけでこんなに面白いお話ができてしまうのかという驚き(同じことは『怪奇大作戦』にも感じていました)物語の中で、責任感をもって格好よく活躍する大人の男たち(同時代のドラマでは、勿論、格好よく活躍する大人の女性たちもおりました)――こういう魅力は、小学生の視聴者にだって、ちゃんと伝わるのです(いまだってそうでしょう) そこから大人向けのSF作品へ手を伸ばした子供は、当時、たくさんいたはずです。私も、テレビドラマから入って、すぐに原作の『日本沈没』を読みましたが、さすがに小学生には原作の内容のすべてを理解することは難しく、もう少し経ってから再読する形になりました。
 小学校中学年から高学年にかけて、私は学校の図書館で、小学生向けの内外の児童書や、椋鳩十全集や、歴史の本や、ポプラ社のアルセーヌ・ルパン・シリーズに夢中になりながら、もうひとつ好きだったジャンルがありました。学研から出ていた「動物の記録」シリーズです。自然科学の中でも生物系に特化したこのシリーズは、とてもしっかりと科学の思考方法を解いた本で、分野としては地学となる『日本沈没』にもすっと馴染めたのは、この本が、科学の面白さを教えてくれていたからだと思います。科学者の伝記シリーズも大好きでした(こちらは正式名称がわかりません) 私の場合、だいたい、この頃に猛烈に好きになったもので、大人になってからも人生を回しているわけですね。

●いま、タイムマシンに乗って45年余前に行き、ブラウン管テレビにかじりついて、テレビドラマ版『日本沈没』に見入っている子供時代の自分に、「あと45年ぐらいたったら、いま観てるドラマの原作本の解説を自分が書くんやで」と教えても、きっと、きょとんとするだけでしょう。
 私は「子供の頃から作家になりたかった」というタイプの人間ではないので、当時は、ただただ、小説(なんでも読んだ。ホラー作品もこの頃から好きだった)が面白い、科学書が面白い、映画やドラマやテレビ漫画(あの頃は「テレビアニメ」という言葉がなく、こう呼ばれていました)が面白いと、受け手としての立場のみで、創作物に耽溺していたのですが、そうやって自分の中に好きなものをいっぱい溜め込んで、繰り返し感動を反芻しつつ、ぼーっとしていられた時期があったことは、本当にしあわせだったのだなと、いまでも感じます。