『上海灯蛾』(双葉社)が発売されました

『上海灯蛾』(双葉社)が発売されました。
昨年の連載終了後から、結構、長い時間をかけて準備を調えていたので、ようやくの刊行です。連載時から大きく変えた部分も多いので、お楽しみに。
 ●関連作すべての簡単な紹介ツイート
 https://twitter.com/OfficeTripleTwo/status/1634109480031117312
 
『破滅の王』(双葉社文庫)『ヘーゼルの密書』(光文社)と同じく、1930-1940年代の近代史を日本人の視点から描くというコンセプトは変わっていませんが、今回は主要登場人物が庶民なので、エンターテインメント小説の作風に強く寄せています。愛や暴力や己の情念に忠実な大人の男女が、ひとつの時代を熱く駆け抜けていく物語です。歴史的背景の部分は、これまでと同じく、多くの史実を下敷きにしています。

『ヘーゼルの密書』を刊行したときに、この時代を舞台に作品を書くことの意味などについて言及しました。それは、このブログの「戦時上海・三部作」のタグでまとめて読めます。
また、今回は、3月27日には双葉社さんのサイト「COLORFUL」と、4月6日発売の『ダ・ヴィンチ』5月号(KADOKAWA)に著者インタビューが掲載されますので、公開されたら、そちらもご覧下さい。
こちらでも何かエッセイを残しておこうと思っていたのですが、著者としての作業がすべて終わった時点で余力がゼロになってしまったので、もう少し時間を置いてから、三つの作品を振り返ってみたいと思います。

最初に実験的に書いた短編「上海フランス租界祁斉路三二○号」から10年の歳月が流れ、準備期間も含めれば、10年を超える歳月を資料の読み込みと執筆に費やしてきました。今年はデビュー20周年なので、プロ作家活動の半分の期間を、この作品群に捧げてきたことになります。勿論、その間も、SFやファンタジー作品を同時に執筆・発表していましたので、より正確に言うと、「SFとファンタジーに20年、歴史小説に10年」を投じた20年間であった――ということですね。

短編を含めれば四つとなる作品群の中で、戦時上海のすべてを描ききったかというと、そのようなことはまったくありません。
ここまでが「戦時上海を描くために必要であった、ぎりぎり最低限の範囲」です。
発表してきた作品群で言及できなかったことは数多くあります。それらは、すべてこれからの課題です。
戦時上海やアジアの近代史は、史学の専門家がいまなおリアルタイムで研究を続けている分野で、決して「もう過ぎ去った、何も考えなくていい/扱わなくていい歴史」ではありません。現役研究者の方々の活躍や、専門家が執筆した書籍に触れる機会を得るたびに、そのような感慨をますます強くしました。

いつか、「『魔都』ではない上海の姿」を描く機会も訪れることを期待しつつ、いまはとりあえず、新刊『上海灯蛾』をよろしくお願い致します。

次の単著は、『播磨国妖綺譚』第二巻になる予定です。